大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

松江地方裁判所出雲支部 昭和61年(ワ)38号 判決

原告

錦織美由紀

右訴訟代理人弁護士

立岩弘

被告

多久和茂信

被告

平田市農業協同組合

右代表者理事

石川金市

右両名訴訟代理人弁護士

松原三朗

被告

東京海上火災保険株式会社

右代表者代表取締役

松多昭三

右訴訟代理人弁護士

田中登

右訴訟復代理人弁護士

松原三朗

主文

一  被告多久和茂信は原告に対し、三二二六万二八五五円及びこれに対する昭和六一年六月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告東京海上火災保険株式会社は原告に対し、九〇七万九五〇〇円及びこれに対する昭和六一年六月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告平田市農業協同組合は、原告の被告多久和茂信に対する本判決が確定したときは、原告に対し、二三一八万三三五五円及びこれに対する昭和六一年六月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告の被告多久和茂信及び被告平田市農業協同組合に対するその余の各請求を棄却する。

五  訴訟費用中、原告と被告多久和茂信及び被告平田市農業協同組合との間に生じたものはこれを四分し、その一を原告の負担とし、その余を右被告らの負担とし、原告と被告東京海上火災保険株式会社との間に生じたものは同被告の負担とする。

六  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告多久和茂信は原告に対し、四四三六万二九五四円及びこれに対する昭和六一年六月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  主文第二項と同旨。

3  被告平田市農業協同組合は、原告の被告多久和茂信に対する本判決が確定したときは、原告に対し、三五二八万三四五四円及びこれに対する昭和六一年六月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

5  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁(被告三名共通)

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  請求の原因

一  交通事故の発生

1  日時 昭和五六年一〇月九日午後六時二〇分頃

2  場所 島根県簸川郡斐川町大字坂田五二八番地先斐伊川堤防上道路

3  加害車 普通乗用自動車(島根五五も八八三)

右運転者 被告多久和茂信(以下被告多久和)という。)

右所有者 同被告

4  被害車 自転車

右運転者 原告

5  態様 被告多久和は、加害車を運転して前記道路を東進中、先行車両を追越すため対向車線に進出したところ、対向車線を西進してきた被害車に衝突し、原告を約八メートル下の水路脇に転落させた。

二  責任原因

1  被告多久和

被告多久和は、加害車を所有しこれを自己のために運行の用に供していたものであり、かつ自己の過失(安全確認を怠つて対向車線に進出した)により本件交通事故を惹起したものであるから、自賠法三条及び民法七〇九条により原告の蒙つた損害を賠償する責任がある。

2  被告東京海上火災保険株式会社(以下被告会社という。)

被告会社は、本件加害車につき、昭和五四年一二月二六日から昭和五六年一二月二六日までを保険期間とする、自賠法所定の自動車損害賠償責任保険契約を締結しているので、自賠法三条、一六条により保険金額の限度において原告の損害を賠償する責任がある。

3  被告平田市農業協同組合(以下、被告組合という。)

被告組合は、被告多久和との間で本件加害車につき、昭和五六年五月二四日から昭和五七年五月二四日まで共済期間とする、対人賠償共済金額五〇〇〇万円の自動車共済契約を締結しているので、右契約に基づき、原告に対し、被共済者と損害賠償請求権者である原告との間の損害賠償額の確定した時に、共済金額の限度において損害賠償をなすべき義務がある。

三  損害

1  受傷、治療経過等

(一) 原告は、事故後直ちに救急車で平田市内の平田市民病院に搬送されたが、絶対安静を要する重体であつた。同病院では、頭部打撲、前胸部打撲、腹部打撲、右膝打撲、腎損傷、肝損傷等と診断され、引続き同病院に入院して治療を受け、同月二六日退院した。

(二) しかし、労作時の呼吸困難、心悸亢進が消失しないため、翌昭和五七年四月二〇日出雲市内の島根県立中央病院で受診したところ、三尖弁閉鎖不全症と診断され、同年五月二五日から同月三一日まで入院し、昭和五九年一月一九日まで通院してそれぞれ治療を受けたが、病状は好転しなかつた。

(三) そのため、原告は、昭和六〇年三月四日奈良県天理市内の財団法人天理よろず相談所病院(以下、天理よろず病院と略記する。)に入院し三尖弁人工弁置換術の手術を受け、同年四月九日退院した。

(四) しかしながら、原告は、依然として、労作時に息切れ、心悸亢進があるうえ、疲労倦怠が顕著で、人並みに作業を継続することが困難であり、軽易な労務以外の労務に服することができない。また、人工弁置換術を受けているので、生涯にわたつて抗凝固療法(一日三回薬の服用を要す)を必要とするうえ、全身諸臓器の出血、人工弁を原因とする血栓症、心内膜炎の発症など致命的な合併症を惹起する可能性があるため、生涯それらに対する全身管理を持続しなければならない。更に、妊娠時の管理は非常に難しく、出産は望めない状態である。

加えて、顎部に長さ三センチメートル、右膝に縦一〇センチメートル、横四センチメートルの醜状痕を残している。

このため、原告は、胸腹部臓器の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないものであるので、その後遺障害は自賠法施行令二条の別表の第七級に該当する。

(五) なお、原告は、昭和六〇年五月三〇日心臓機能障害(三尖弁閉鎖不全)により身体障害者一級の認定を受けた。

2  因果関係

原告の三尖弁閉鎖不全は、本件交通事故で胸部を強打したことによる外傷性のものである。原告は生来極めて健康で、スポーツクラブのリーダーとして活躍していたものであつて、本件事故以外に三尖弁閉鎖不全の原因となるものはない。

3  治療関係費 合計四〇万三三八八円

(一) 治療費 一五万五三八八円

原告は、治療費として、島根県立中央病院に八万三五七八円、天理よろず病院に七万一八一〇円を各支払つた。

(二) 入院雑費 六万二〇〇〇円

一日一〇〇〇円の割合で六二日分

(三) 入院付添費 三万六〇〇〇円

付添を要するものと証明された一二日間につき、一日三〇〇〇円の割合

(四) 通院交通費 一五万円

天理市内の天理よろず病院に通院するため支出した原告と付添人の交通費

4  後遺障害による逸失利益 二八九五万九五六六円

原告は、本件事故による受傷後の三年間両親の自家用車で送迎してもらつて昭和六〇年三月島根県立出雲農林高校を卒業したが、身体障害者で就職先がないため無職である。そして、原告は、前記のとおり軽易な労務以外の労務に服することができないものであり、労働能力の五六パーセントを喪失している。そこで、女子全年齢平均月額給与一七万六五〇〇円、労働能力喪失率五六パーセント、四九年間の新ホフマン係数24.4162によつて原告の逸失利益を計算すると、二八九五万九五六六円となる。

5  慰謝料 一二〇〇万円

(一) 傷害慰謝料 二〇〇万円

原告は、事故日である昭和五六年一〇月九日から天理よろず病院を退院した昭和六〇年四月九日まで約三年六か月に及ぶ長期の治療を受け(入院日数六二日、通院実日数二八日)、長期間精神的不安と苦痛を蒙つているうえ、心臓手術まで受けているので、その慰謝料は、二〇〇万円を下らない。

(二) 後遺障害慰謝料 一〇〇〇万円

原告は、前記のとおり、三尖弁人工弁置換術を受けており、生涯薬を服用しなければならないうえ、致命的合併症を惹起するおそれがあるため、常に生命に対する不安と精神的緊張を持続しなければならない。加えて、出産はあきらめねばならず、結婚についても大きな不安が残る。また、右膝等に醜状痕も残つており、適齢期を迎える原告の受けた精神的痛手は誠に重大であり、これに対する慰謝料は、一〇〇〇万円を下らない。

6  弁護士費用 三〇〇万円

7  損害額合計 四四三六万二九五四円

四  結論

よつて、原告は、被告多久和に対し損害合計四四三六万二九五四円及びこれに対する不法行為の後の日(本訴状送達の日の翌日)である昭和六一年六月二六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、被告会社に対し前記三の損害のうち、3の治療関係費四〇万三三八八円と5(一)傷害慰謝料二〇〇万円の合計二四〇万三三八八円のうち七一万九五〇〇円(自賠法の傷害保険金一二〇万円より平田市民病院の治療費四八万〇五〇〇円が支払われているのでこれを控除した金額)と、4の後遺障害による逸失利益二八九五万九五六六円と後遺障害慰謝料一〇〇〇万円の合計三八九五万九五六六円のうち八三六万円(後遺障害第七級の保険金)との合計九〇七万九五〇〇円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和六一年六月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、被告組合に対し、原告の被告多久和に対する判決の確定を条件に、前記損害金合計四四三六万二九五四円から被告会社に対して請求する九〇七万九五〇〇円を控除した三五二八万三四五四円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和六一年六月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三  請求原因に対する認否

(被告多久和・被告組合)

一  請求原因一の事実は認める。

二  請求原因二の1及び3の事実は認める。

三  請求原因三の1(一)ないし(三)の事実は認め、同1の(四)及び(五)の事実は不知。

同三の2の事実は争う。原告の心機能障害は、本件事故と因果関係がない。自賠責保険の後遺症認定もなかつた。

同三の3ないし7の事実はすべて不知。

(被告会社)

一  請求原因一の事実は認める。

二  請求原因二の2の事実は認める。

三  請求原因三の1の各事実は不知、同2の事実は争う。同3ないし7の事実はすべて不知。

原告の三尖弁閉鎖不全と本件事故との因果関係については、この点を調査した自賠責保険の松江調査事務所の事前認定で消極という結論が出されており、被告会社としても、同認定に従うものである。仮に本件事故との因果関係が存在するとしても、同障害は、人工弁置換術によつて改善されており、自賠法施行令二条の別表の等級では第七級以下程度の状況とみる余地が多分にある。

第四  証拠〈省略〉

理由

第一事故の発生

請求原因一の事実は全当事者間に争いがない。

第二責任原因

請求原因二1及び3の事実は原告と被告多久和及び被告組合との間で、請求原因二2の事実は原告と被告会社との間で、それぞれ争いがない。

したがつて、被告らは原告に対し、本件事故により原告が受けた損害を賠償すべき責任がある。

第三損害

一受傷、治療経過等

1  請求原因三1の(一)ないし(三)の各事実は原告と被告多久和及び被告組合との間で争いがない。また、原告と被告会社との間では、〈証拠〉により右各事実を認めることができる。

2  右の事実に〈証拠〉を総合すると、更に次の事実が認められる。

原告は、本件事故に遭遇した翌年の昭和五七年四月出雲農林高校に入学したが、向かい風で自転車を走らせたときや階段の上り下りの際に息苦しさを覚えたので、同月二〇日島根県立中央病院で精密検査を受けたところ、三尖弁閉鎖不全と診断され、以後入通院して強心利尿剤の投与等治療を受けたものの症状は改善されなかつた。原告は、その後なお労作時の息切れや心悸亢進に苦しみながらも何とか通学を続けたが、昭和五九年一一月天理市の天理よろず病院に赴いて専門医の診察を仰いだところ、同様三尖弁閉鎖不全と診断されたうえ、心臓肥大が認められるとの理由で手術を勧められた。原告はその後しばらく経過をみたものの、一向に軽快しないので、高校を卒業した昭和六〇年三月四日天理よろず病院に入院し、同月七日三尖弁人工弁置換術を受けた。原告は、術後一時心嚢水の貯溜が生じたほかは経過良好で、同年四月九日同病院を退院した。

原告は、前記手術の結果、これまで強かつた息切れや心悸亢進がかなり軽快したが、人工弁置換術を受けた関係で、血栓を予防する必要上ワーファリン等の血液抗凝固剤を一日三回、生涯にわたり服用しなければならないうえ、抗凝固療法を続けることに伴い、全身諸臓器の出血、弁の機能不全による血栓症、あるいは細菌感染による心内膜炎など重大な合併症を惹起する可能性が多分にあるため、終生それらに対する全身管理を怠ることができない。更に妊娠した場合には、分娩時の出血の危険が大きいうえ、前記凝固剤が催奇性を有するため、簡単には出産を望めない状態である。加えて、原告は胸腹部に長さ約二七センチメートル(縦)と長さ約四センチメートル(横)のケロイド状の手術痕が残つた(傷痕は軽く触つても痛みが走るので、車のシートベルトは事実上締めることができない)ほか、膝にも事故による傷痕で醜状を呈しているため、毎日衣服に気を使うのみならず、将来の結婚についても大きな不安を抱いている。なお原告は、昭和六〇年五月三〇日心機能障害(三尖弁閉鎖不全)により身体障害者一級の認定を受けた。

しかして、原告は、本訴提起後の昭和六一年七月から出雲市にある村田製作所に臨時雇用され、椅子に座つて行う軽作業に従事し日給四〇〇〇円の収入を得たが、疲労感が強いうえ、人工弁の調子が悪くなつたりした(昭和六一年一一月一二日島根県立中央病院で人工弁再弁置換術を受けた。)ため、実働六〇日余りで同製作所をやめた。また原告は、昭和六二年六月から親威の者から頼まれたこともあつて農協へアルバイトに出て、野菜等の集計票の整理など事務手伝いをしているが、前同様疲れがきついので、今後どの程度の仕事に従事しうるか(本人の意欲ももちろん問題となろうが)予断を許さない。

以上のとおり認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

3  ところで、被告らは、原告の心機能障害(三尖弁閉鎖不全)と本件事故との因果関係を争うので検討する。

〈証拠〉によれば、三尖弁閉鎖不全には先天性のものと後天性のものがあるが、先天性のものではエプスタイン氏病が代表的で、これは三尖弁の弁腹、腱索、乳頭筋のすべてが発育不全のため閉鎖不全が起こるものであり、後天性のものでは外傷によるものとリューマチ熱が原因となるものが主で(他に加齢による動脈硬化性の変化があるが、本件の場合度外視してよい。)、後者は、リューマチ熱による変化、すなわち左心室の僧帽弁狭窄など弁膜障害による左心系の負担が右心系により伝達され、その結果として三尖弁の周囲が肥大して閉鎖不全が起こるというものであり、したがつてこの場合には既に僧帽弁に異常が発生しているのが一般であること、しかるところ、原告の三尖弁の状態はそのうちの前弁尖の腱索が完全に断裂したものであり、弁腹や腱索そのものは十分発育していたことが手術時の所見で明らかにされているほか、術後の病理検査でも三尖弁の弁腹、腱索とも退行性変性や炎症性変化も認められなかつたこと、一方、原告は生来極めて健康で、庭球部のメンバーとして活躍していたところ、本件事故に遭遇して胸を強打して以来、息苦しさや心悸亢進を覚えるようになつたことが認められ、以上の事実に、本件交通事故以外に原告の心機能障害の原因らしいものが見当たらないことをあわせ考えると、原告の心機能障害(三尖弁閉鎖不全)は本件交通事故によつて生じたものであることが明らかであつて、右の認定、判断を左右する証拠はない。

二治療関係費 合計四〇万三三八八円

1  治療費 一五万五三八八円

〈証拠〉によれば、原告は本件事故による前記傷害の治療費として、島根県立中央病院に八万三五七八円、天理よろず病院に七万一八一〇円を各支払い、合計一五万五三八八円の損害を蒙つたことが認められる。

2  入院雑費 六万二〇〇〇円

原告が平田市民病院、島根県立中央病院及び天理よろず病院に合計六二日入院したことは前記のとおりであり、原告において右入院中一日一〇〇〇円の割合による六二日分合計六万二〇〇〇円の雑費を要したことは経験則によりこれを認めることができる。

3  入院付添費 三万六〇〇〇円

〈証拠〉によれば、原告は本件事故直後平田市民病院に搬送されたが、昭和五六年一〇月九日から同月一六日までの七日間絶対安静の状態で母美代子が付添看護に当たつたこと、また原告は前記のとおり昭和六〇年三月天理よろず病院に入院して同月七日三尖弁人工弁置換術の手術を受けたが、術後の同月九日から同月一三日までの五日間付添看護を要する状態にあり、現実に前同様母美代子が付添看護に当たつたことが認められる。そして、近親者の付添看護費用としては入院一日につき三〇〇〇円をもつて相当とみるべきであるから、本件における付添看護費用の損害は原告主張の額である三万六〇〇〇円となる。

4  通院交通費 一五万円

〈証拠〉によれば、原告は本件事故による負傷を治療するため島根県簸川郡斐川町の自宅から奈良県天理市の天理よろず病院まで父又は母に付添われて少なくとも二回通院したが、右通院は遠距離のことでもあり、飛行機等を利用したことが認められ、右事実及び経験則によれば、原告が少なくともその主張にかかる一五万円の損害を蒙つたものとみて差支えない。

三後遺障害による逸失利益 二〇八五万九四六七円

原告が本件事故により受けた傷害、すなわち三尖弁閉鎖不全症は人工弁置換術により多少改善されたことは前記のとおりであるが、〈証拠〉によれば、原告は術後においても依然として動悸、息切れが持続し、疲労倦怠も激しいことが認められるのであつて、人工弁を身体内に装着していること(手術で治療が完結したというのならともかくも人工弁という異物を身体内に装着し、これにいつ異変が生じるかもわからないというのは肉体的、精神的に大きな負担である)を含め原告に後遺障害が残つていることは明らかであるところ、その症状の内容程度等に照らすと、原告の後遺症の等級は、自賠法施行令別表第七級五号の「胸腹部臓器の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」に該当もしくは相当し、それゆえ労働能力を五六パーセント喪失し、その状態は、症状固定時とみてよい人工弁置換術施行時である昭和六〇年三月当時の原告の年齢一八歳から平均余命六七歳までの四九年間にわたり継続するものと認められる。

そして当裁判所に明らかな昭和五九年度賃金センサス(産業計企業規模計学歴計)によれば、同年度の一八歳ないし一九歳の女子労働者の平均年収は一五二万五六〇〇円(きまつて支給する現金給与月額一一万六八〇〇円、年間賞与その他特別給与額一二万四〇〇〇円)であるから、新ホフマン係数(24.416)を乗じて逸失利益の現価を求めると二〇八五万九四六七円となる。

四慰謝料 一〇〇〇万円

原告が本件事故により精神的苦痛を受けたことは容易に推認できるところ、本件事故の態様、本件事故により受けた傷害及び後遺障害の部位程度ならびに治療状況等諸般の事情を総合すると、原告が本件事故によつて蒙つた精神的損害に対する慰謝料額は一〇〇〇万円とするのが相当である。

五弁護士費用 一〇〇万円

原告が本件訴訟の提起を余儀なくされ、その追行を弁護士立岩弘に委任したことは本件記録上明らかであり、経験則上相当額の報酬の支払いを約していることが推認できるところ、本件事案の難易、審理の経過及び認容額に照らし、そのうち本件事故と相当因果関係にある損害と認めうる額は一〇〇万円が相当である。

六損害額合計 三二二六万二八五五円

以上によれば、原告の本件事故による損害は、合計三二二六万二八五五円となる。

第四結論

したがつて、原告に対し、被告多久和は三二二六万二八五五円及びこれに対する本件不法行為の後の日(本訴状送達の日の翌日)である昭和六一年六月二六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、被告会社は自賠責保険金として原告請求にかかる九〇七万九五〇〇円を及びこれに対する前記昭和六一年六月二六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、被告組合は、原告の被告多久和に対する判決の確定を条件に、前記三二二六万二八五五円から右九〇七万九五〇〇円を控除した二三一八万三三五五円及びこれに対する前記昭和六一年六月二六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払う義務がある。

よつて、原告の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、被告多久和及び被告組合に対するその余の請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官森野俊彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例